祭りの日
断食の月が明けると、祭りの日が来る。
友だちは、みんな、両親と一緒にいる。
DEVANは、祖母の家にいた。
「それでちょっと、辛いです。」
子どものころ、家には、食べるものにも困る日があった。
父には、仕事がなかった。
両親は、別れた。
母は、マレーシアへ働きに出た。
父は、別の人と家庭を持った。
「がっかり、しました。」
DEVANは、祖母のもとで育った。

マレーシアで働く母は、おいしいものを食べ、欲しいものを買えるようになった。
彼が頼めば、母が買ってくれた。
外国で働く、ということ。
その意味を、彼は、母を見て知った。

一年おくれの約束
高校の実習を、一緒に過ごした親友がいた。
「一緒に、日本へ行こう。」
そう話していた。
けれど、親は、許してくれなかった。
友だちは、先に日本へ行った。
福岡で、働きはじめた。
それから、一年。
友だちが、もう日本で働いていることを見せて、ようやく、許してもらえた。
彼が日本へ行くと知って、母は、マレーシアから帰ってきた。
出発の、四か月前だった。

八月の暑さ
日本に着いたのは、八月。
「暑いのは、インドネシアと同じ。でも、暑さが違います。」
はじめは、こわかった。
毎日のように、怒られた。
何度も言われて、覚えていった。
「いまは、気持ちが強くなりました。」
日本に来たことを後悔したことは、あるか。
「一度も、ありません。」
怒られることの意味を、彼は、自分で見つけていた。
「日本の人は、怒るときは、見てくれている。怒られなかったら、見てくれない。」
「優しい日本人は、多いです。」
休みの日は、服や靴、かばんを見て歩く。
福岡の友だちとは、日本ではまだ会えていない。
来年には、会いたいと思っている。
最後まで、一緒に
日本の次は、オーストラリアへ行きたい。
だめなら、ポーランド。
仕事は、選ばない。
大事なのは、新しい経験だという。

インドネシアに帰ることは、考えていないのか。
「帰っても、意味がないです。家族も、みんなバラバラじゃないですか。誰も、いないです。」
いままで、何に助けられてきたかを聞いた。
「友だち。」
最後に、伝えたいことばを聞くと、まず、福岡の友だちへ、と話しはじめた。
「そばにいてくれて、ありがとう。家族があんなふうだったけど、いまは、家族みたいな親友がいます。」
そして、母に。
「強くしてくれて、ありがとう。まだ働いていなかったころ、ぼくの欲しいものを、ぜんぶ叶えてくれて。」
父にも、ありがとう、と言った。
夢を聞いた。
「最後まで、奥さんと一緒に暮らしたいです。自分の親みたいじゃなくて。好きな人と結婚して、死ぬまで、一緒に。」
祭りの日。
友だちが両親と過ごすあいだ、彼は、祖母の家にいた。
その彼が、いま、終わらない家族を、思い描いている。
編集後記
「誰も、いないです。」
DEVANさんは、そう言ったあとで、最後まで一緒にいられる家族をつくりたいと話してくれました。
帰っても誰もいない、と話すことと、最後まで一緒にいられる家族を望むこと。
そのふたつは、同じ一人の中に、並んでありました。
福岡には、一年先に日本へ来ていた親友がいます。日本ではまだ会えていなくても、家族のような友だちです。
そして、この国にも、彼を見てくれている人たちがいます。
私たちも、彼を見ている一人でいたいと思います。

